機能性低血糖症検査
ある人が仮に糖尿病まで行かなくても高血糖傾向である場合、一般的に血糖値が急激に上がりやすく(血糖値スパイクと言います)、リバウンドとして血糖値が急降下して低血糖の状態になる事がしばしばあります。しかし残念ながら「自分は高血糖傾向である」との自覚ができている人はわずかであり、精神科外来でもよく見られるにも関わらず見逃されやすい状態の一つです。
機能性低血糖症(Functional Hypoglycemia)という概念は新しく、いまだに正式に医学的な症候群として認められていませんが、1984年のNadeauらの研究によれば、「機能性低血糖症とは、食後3、4時間目にしばしば見られる、精神症状(不安、イライラ、集中力低下、吐き気、しゃべりにくさ、思考力低下など)と交感神経の過活動などの身体症状(吐き気、ふるえ、発汗、顔面蒼白、倦怠感、視力障害など)を伴う症候群である」と述べられています。
機能性低血糖症の中でも最も良く見られるのが「反応性低血糖症(Reactive Hypoglycemia)」です。メイヨークリニック(全米3大病院の一つ)の2016年の記事によれば、「反応性低血糖とは、通常食後4時間以内に起こる高血糖に続くリバウンドとして起こる低血糖症状で、不安、めまい、発汗、脱力感、眠気、空腹感などの症状を伴うものであり、単なる絶食時に起こる(症状が見られない)「低血糖状態(Hypoglycemia)とは異なる。」と述べられています。
2012年の台湾の研究によりますと、2型糖尿病患者2257名を対象とした低血糖症が有る群と無い群の比較で、有る群の方が生活の質(QOL)が落ち、心配事が増す事が統計的に有意な差を認めました(H.Sheuら, 2012年)。同様に、2019年イリノイ大学(米国)とマヒドール大学(タイ)の共同研究によりますと、2型糖尿病患者において低血糖症が有る群と無い群の比較で、有る群の方がうつ病スコア(CES-D)が有意に高く、「うつ症状と低血糖症はお互いに原因となる(相互に関連し合う)と考えるのが妥当である」と結論づけています(A.Biggers, 2019年)。
(機能性低血糖症のグラフ(サンプル):低血糖の部分は赤字・赤線で表示)
一方で、うつ病と糖尿病(慢性的な高血糖の末、血糖調節機能が破綻した病気)の関連性が近年の研究で判明してきています。例えばMESA研究という多人種間の6000名以上を対象とした研究では、うつ病だと糖尿病に1.5倍なりやすく、糖尿病だとうつ病に1.4倍なりやすい事が示されています(Goldenら, 2007年)。つまり、低血糖であれ高血糖であれいずれにしても、血糖値のアップダウンを放置しておくと精神症状(うつや不安)の悪化につながりやすいと言えます。
当院では、機能性低血糖症の診断にFreeStyle リブレ(アボット社)を活用しています。(30ページ程度の解析データおよび10ページ程度の報告レポート付き。自費:税込29800円)これは14日間、円盤のパッチタイプの自動測定器で片側の肩に貼り付けておくだけで良く、自己血糖測定のような痛みや手間の負担やストレスがありません。しかも入浴や運動による影響を受けない簡便さが日本全国で急速に普及されてきた理由です。正確には血液ではなく間質液中(毛細血管のそばにある組織中)のブドウ糖の量を測定します。
ちなみに血糖値(血中ブドウ糖値)との誤差は、約11%です(Ajjanら, 2018年)ご興味ある方はお気軽にお申し付けください。
(アボット社FreeStyle リブレ・パンフレットより抜粋)